■神殺しの魔剣

やどり木の剣
神バルドルを殺した魔剣ミスティルテイン。その正体はやどり木だった。
北欧神話の主神オーディンと王妃フリッガの息子、バルドル。
彼は黄金の髪をもち、話術に長け、賢く、優しく、争うことを好まない事を除けば欠点の無い美しい神だった。神々は彼を愛し、彼は幸せに暮らしていた。
しかしある時から彼は悪夢に悩むようになる。その悪夢はバルドルの死の運命を意味していた。
神々は慌てふためいた。バルドルは彼らの宝だったからだ。神々は彼を死なせない為にある結論を出した。
「この世のありとあらゆるものにバルドルを傷つけないと約束させる」
これは母親のフリッガの手によって行われ、その契約は動物や巨人など生き物はおろか、木、岩、金属、さらには病魔までもバルドルを傷つけないと約束した。
かの有名な奸智の神、ロキすら約束されたらしく、彼も直接バルドルに『いたずら』することは出来なかった。 しかしロキはただひとつの例外を用いてバルドル殺害を実行する。
契約が終わったあと、神々はこぞってバルドルを攻撃した。石を投げつけても、剣で切りつけてもバルドルは傷つかない。 神々は契約が成功したことを喜び、やがてバルドルに物を投げつけることは、バルドルの無事を祝う祭りとなっていった。
全ての神はバルドルの無事を祝い、喜んだ。
そのころロキは『この世のありとあらゆるものがバルドルを傷つけない』という約束が完璧でないことを知った。
ただひとつ、神の国の端にあるやどり木だけはあまりに幼かった為、誓いを立てていなかったのだ。彼はそのやどり木を手に入れ、バルドルの弟、ホズに手渡した。 ホズは盲目の神で、彼はこのバルドルを祝う祭りには参加していなかった。ロキは言葉巧みにホズを祭りに誘い、やどり木をバルドルに投げさせた。
こうしてやどり木の枝はミスティルテインと呼ばれる神殺しの魔剣となった。
ミスティルテインはバルドルを貫いた。何者にも殺されるはずの無い不死となったバルドルはこうして死んだ。
神々はすぐにロキの仕業だと感づいたが、神聖な祭りの場でロキを罰することはできない。
神々はバルドルを取り戻す為、死の国へと赴いた。死の王と交渉した結果、この世の全てがバルドルの返還を望むのなら彼を生き返らすという。
神々はバルドルを愛していた。そう、ロキを除いて。
バルドルの返還を望まなかったロキの陰謀でバルドルは蘇ることは無かった。
こうして愛されたバルドルは死に、彼の死をきっかけに北欧の神話の終わり、神々の黄昏が始まるのである。

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